永住許可申請(国益要件)の立証に伴う社会保険及び労働保険の遡及加入について

 外国人は、地方入国管理局から永住許可申請における立証資料として公的年金の保険料や労働保険料の納付記録を求められる場合があります。そこで、永住許可申請の国益要件について可能な範囲で充足すべく社会保険と労働保険の遡及加入についてご説明いたします。

1.永住許可申請における国益要件
 入管法は、永住許可申請があつた場合には、法務大臣は、その者が次の各号に適合し、かつ、その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り、これを許可することができる旨規定します(入管法22条2項)。
 ここで「日本国の利益に合すると認めたとき」(国益要件)は、納税義務等公的義務を履行していることを含め、法令を遵守していることが要件の一つとなります(入国・在留審査要領第27節永住者・国益要件(イ))。
 国益要件の詳細は、情報公開されておりませんが、納税義務等公的義務には社会保険及び労働保険等の保険料納付義務が含まれると解します。
 よって、永住許可申請には、公的年金及び労働保険等の納付記録が要求される場合があります(入管法22条2項、入国・在留審査要領第27節永住者・国益要件(イ))。

2.厚生年金保険について
(1)厚生年金保険の適用事業所
 厚生年金保険法(以下「厚年法」といいます。)は、個人事業主で常時5人以上の従業員を使用するもの(厚年法6条1項1号)、法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するものは適用事業所とする旨規定します(同項2号)。
 又、外国人労働者及び役員は、厚生年金保険の被保険者の資格を取得し(厚年法9条)、事業主は、保険料の半額を負担し(厚年法82条1項)、使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負います(同2項)。
 なお、厚生年金保険への加入と保険料納付義務は、事業主に課しているのであって、外国人労働者には課されていません(同項反対解釈)。

(2)年金記録の確認請求
 被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、第18条第1項の規定(被保険者の資格の得喪の確認)による確認を請求することができることから(厚年法31条1項)、被保険者である外国人は、管轄する年金事務所に対し、公的年金の加入及び納付歴を確認すべく被保険者記録照会回答票及び被保険者記録照会(納付Ⅱ)(照会区分04)を請求することができます。

(3)年金未納がある場合
 当該外国人が被保険者記録照会回答票及び被保険者記録照会(納付Ⅱ)(照会区分04)を請求して年金を全額納付していた場合、特に問題はありません。
 しかし、当該外国人に年金保険料を納付していない期間があった場合、永住許可申請の国益要件に抵触するおそれがあります(入管法22条2項)。
 そこで、永住許可申請の国益要件について可能な範囲で充足すべく厚生年金保険について2年を限度として遡及加入することができます(厚年法92条1項)。

(4)厚生年金保険の遡及加入
 厚年法は、保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によつて消滅する旨規定します(厚年法92条1項)。
 当該規定は、国の保険料に係る徴収権は2年経過により消滅時効となる規定であるから、過去2年分の保険料を遡及して納付することが認められています。ただし、過去2年分の厚生年金保険料と健康保険料を一括して納付しなければなりません。
 なお、過去2年以上遡及して保険料を納付することもできますが、年金記録に反映されるのは2年分に限られますのでご注意ください。

(5)社会保険料の遡及納付を起因とする国民健康保険料の還付請求
 厚生年金保険における保険料の遡及納付(厚年法92条1項)は、厚生年金保険料の他健康保険料を併せた金額を一括納付しなければなりません。
 しかし、外国人従業員が社会保険料を遡及納付した期間内において国民健康保険料を地方自治体に納付していた場合、保険料の二重負担が生じます。
 そこで、当該外国人は、二重負担を解消すべく国民健康保険料の還付を請求することができます(地方自治法231条の3第4項、地方税法17条)。
 ただし、社会保険の遡及加入の時期によっては二重負担が一部解消されない場合がありますのでご注意ください。詳細は次のとおりです。

(6)社会保険料の遡及納付の注意点
 健康保険法(以下「健保法」といいます。)は、健康保険料は、毎月、翌月末日までに納付しなければならない旨規定し(健保法164条1項)、保険料の遡及納付の消滅時効は2年とする旨規定します(健保法193条1項)。
 一方、国民健康保険法(以下「国保法」といいます。)は、保険料を確定する処分である賦課決定について、当該年度の初日(4月1日)を基準として年度単位で行うこととし(国保法76条の2)、保険料還付の消滅時効は2年とする旨規定します(国保法110条)。
 すなわち、健康保険料は月を単位として2年遡及して納付できますが、国民健康保険料は4月1日を基準として年度を単位として還付されるために、社会保険の遡及加入の時期によっては二重負担が一部解消されない場合があります。
 よって、社会保険の遡及加入については、国民健康保険料の還付請求と併せて慎重に検討しなければなりません。

(7)事業主が保険料を源泉徴収したが国に納付しなかった場合(特例法)
 厚年法は、事業主は保険料の半額を負担し(厚年法82条1項)、使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う旨規定します(同2項)。
 しかし、事業主が外国人従業員から厚生年金保険料を源泉徴収しながら(厚年法84条1項)、年金事務所に納付しなかった場合、当該期間は年金記録に反映されず、又、遡及加入も2年前までに制限されることから(厚年法92条1項)、外国人従業員の年金記録に不利益が生じます。
 そこで、法は、社会保障審議会が、事業主が外国人従業員から厚生年金保険料を源泉徴収しながら、年金事務所に納付したことが明らかでないと認定した場合、年金事務所は年金記録を訂正し、年金額に反映させることができる旨規定します(厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律1条)。従業員を救済する趣旨です。

(8)国民年金の遡及加入(個人事業主の外国人の場合)
 在留資格「経営・管理」を有する外国人であって、法人を設立せずに個人事業主として活動し、従業員が5人未満の者は、厚生年金ではなく国民年金法(以下「国年法」といいます。)第1号被保険者に該当し(国年法7条1項1号、厚年法6条1項1号、同2号)、国民年金の保険料納付義務を負います(国年法88条1項)。
 しかし、当該外国人が国民年金の保険料を納付していない期間があった場合、永住許可申請の国益要件に抵触するおそれがあります(入管法22条2項)。
 そこで、永住許可申請の国益要件について可能な範囲で充足すべく過去2年分の保険料を遡及して納付することが認められています(国年法102条4項)。
 なお、例外的に過去5年分の保険料を遡及して納付することができた後納制度は、平成30年9月30日をもって終了しました(附則(平成26年6月11日法律第64号)第10条1項)。

3. 労働保険について
(1)国益要件の立証資料
 永住許可申請における国益要件の納税義務等公的義務には、労働保険料の納付義務等が含まれると解されることから(入管法22条2項、入国・在留審査要領第27節永住者・国益要件(イ))在留資格「経営・管理」を有する外国人が永住許可申請をしたとき、地方入国管理局から労働保険の概算・確定保険料申告書及び領収証書の各写しが要求される場合があります(同)。

(2)労働保険の概要
 法は、労働者を使用(雇用)する事業を適用事業とする旨規定します(労災法3条1項、雇用保険法5条1項)。
 在留資格「経営・管理」を有する外国人が、労働者(国籍を問わず)を使用(雇用)する事業をしている場合、労働保険の適用事業に該当します(同項)。
 又、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」といいます。)は、当該適用事業の事業主については、その事業が開始された日に、その事業につき労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立し(徴収法3条、同4条)、保険関係の成立の届出等を政府に届け出なければならない旨規定します(徴収法4条の2)。
 そして、事業主は、保険年度ごとに労働保険料をその労働保険料の額等を記載した申告書に添えて、その保険年度の6月1日から40日(7月10日まで)以内に前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する年度更新を行います(徴収法15条、同19条)。

(3)労働保険に未加入の場合
 当該事業所が労働保険に加入し、労働保険の概算・確定保険料申告書及び領収証書写しを提出できる場合、特に問題はありません。
 しかし、当該事業所が労働保険に加入していなかった場合、永住許可申請の国益要件に抵触するおそれがあります(入管法22条2項)。
 そこで、永住許可申請の国益要件を可能な範囲で充足すべく労働保険について2年を限度として遡及加入することができます(徴収法42条1項)。

(4)労働保険の遡及加入
 徴収法は、労働保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によつて消滅する旨規定します(徴収法42条1項)。
 当該規定は、国の保険料に係る徴収権は2年経過により消滅時効となる規定であるから、過去2年分の労働保険料(労災保険料と雇用保険料)を遡及して納付することが認められています。ただし、過去2年分の労働保険料を一括して納付しなければなりません。
 なお、過去2年以上遡及して保険料を納付することもできますが、失業給付等に反映されるのは2年分に限られますのでご注意ください。