フィリピン大使館におけるレッドリボン認証(Authentication)の留意及び改正点

1.はじめに
 フィリピン人労働者の入国手続は、在日フィリピン大使館のレッドリボン認証が必要とされるなど事務的負担が多く複雑です。レッドリボン認証等の取得については、具体的に記載した文献等がなく、一部の実務経験者の経験則に基づき行われてきました。そこで、誰でも容易に理解ができるように、以下のとおり記載しました。記載内容について瑕疵がございましたら何卒ご了承下さい。

2.フィリピン人労働者の入国手続について
(1)レッドリボン認証(Authentication)
 入管法(以下「法」といいます。)は、原則として本邦に上陸しようとする外国人は、在留資格認定証明書の交付後(法7条の2)、日本国領事官等から査証(法6条)、入国審査官の審査(法7条)、旅券に上陸許可の証印を受けなければならない旨規定します(法9条)。
 しかし、申請人がフィリピン共和国の国籍を有する場合、在留資格認定証明書の交付後(法7条の2)、英文雇用契約書(Labor contract)について公証人の外国文認証、法務局長の公証人署名の証明及び外務省領事局担当官の公印確認が必要となります。又、当該手続後、在日フィリピン大使館の領事認証(Authentication)、いわゆるレッドリボン認証も必要となります。なぜなら、当該認証がなければ、フィリピン共和国の国内手続であるフィリピン海外雇用庁(POEA)における海外雇用証明書の発行申請が認められないからです。
 よって、フィリピン人労働者の入国手続は、在日フィリピン大使館のレッドリボン認証等が必要となる点に留意しなければなりません。

(2)認証が必要となる理由
 外国公文書の認証を不要とする条約(以下「ハーグ条約」といいます。)は、外交官又は領事官による外国公文書の認証を不要とすることを目的とし、各締約国は、自国の領域において提出される文書でこの条約の適用を受けるものにつき、認証を免除し(同条約2条)、署名の真正、文書の署名者の資格等の同一性の証明として要求することかできる唯一の手続は、当該文書を発する国の権限のある当局による証明文の付与し(同条約3条)、当該認証に係る証明文は、文書自体又は補箋(アポスティーユ)に記載する旨規定します(同条約4条)。
 我が国は、ハーグ条約について1970年に批准し、同年7月27日に発効しています。我が国の外務省からアポスティーユを取得すれば、ハーグ条約に加盟する他国に公文書等を提出する際、当該在日外国大使館等の領事認証が免除されます(同条約2条、3条、4条)。
 しかし、フィリピン共和国は、ハーグ条約に加盟しておらず、非加盟国のフィリピン共和国に公文書等を提出する場合、在日フィリピン大使館の領事認証は免除されません(同条約2条)。
 よって、英文雇用契約書は、在日フィリピン大使館の領事認証が必要となります。

(3)公印確認が必要となる理由
 我が国の外務省は、ハーグ条約非加盟国のフィリピン共和国に提出する公文書等についてアポスティーユができず(同条約3条、4条)、その代わりに公印確認を行っています。
 又、フィリピン共和国は、在日フィリピン大使館の領事認証を行う前提として、外務省の公印確認を要求しています。
 よって、英文雇用契約書は、外務省の公印確認が必要となります。

3.英文雇用契約書(Labor contract)について
(1)準拠法
 フィリピン人労働者と日本企業との英文雇用契約書は、フィリピン共和国の労働法令か、或いは日本の労働法令を適用すべきか問題となります。
 国際間の準拠法を規定した法の適用に関する通則法7条は、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法とする旨規定します。いわゆる「当事者自治の原則」です。一方、同法12条3項は、同法7条の選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する旨規定します。
 本件において、フィリピン人労働者と日本企業との雇用契約において、日本の労働基準法を準拠法とする合意がある場合、日本の労働基準法が適用されます(当事者自治の原則)。又、準拠法についての合意がない場合であっても、当該労働者の労働契約に最も密接に関連する地が日本であれば、日本の労働基準法が適用されます。
 よって、英文雇用契約書の準拠法は、日本の労働基準法となります(法の適用に関する通則法7条、同法12条3項)。

(2)記載事項
 労働基準法15条1項は、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない旨規定します。又、労働契約法4条2項は、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする旨規定します。
 労働条件通知書(雇用契約書)の書面的明示事項は、①労働契約の期間に関する事項、②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項、③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項、④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等に関する事項、⑤賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項、⑥退職に関する事項となります(労働基準法施行規則5条1項1号乃至4号、同2項)。
 しかし、在日フィリピン大使館から英文雇用契約書の領事認証を受ける場合、上記書面的明示事項の他、口頭的明示事項である①退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項、②臨時に支払われる賃金、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項、③労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項、④安全及び衛生に関する事項、⑤職業訓練に関する事項、⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項、⑦表彰及び制裁に関する事項、⑧休職に関する事項も記載すべきと解します(同1項4条の2号乃至11号)。なぜなら、在日フィリピン大使館は、書面的明示事項のみを記載した英文雇用契約書について領事認証しておらず、又、フィリピン海外雇用庁が作成した雛型は、自国の労働者を保護すべく概ね口頭的明示事項を含めた内容により作成されているからです。
 よって、英文雇用契約書の記載事項は、フィリピン海外雇用庁が作成した雛型に準じて口頭的明示事項も記載すべきと解します(同施行規則1項1号乃至11号)。

(3)署名と印鑑
 労働契約法4条2項は、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする旨規定します。一般的には、使用者が法人の場合、法人が契約当事者として法人の印鑑を押印します。
 しかし、印鑑制度は、日本や中国等の東アジアに限定された制度であって、欧米諸国は印鑑制度がありません。フィリピン共和国においても、印鑑制度がなく当事者の署名をもって意思の確認をしていることから、法人の代表者の署名をもって契約の締結をします。又、フィリピン海外雇用庁(POEA)は、フィリピン人労働者を国外で雇用する法人の代表者の登録を行っています。
 よって、英文雇用契約書には、使用者たる法人の代表者が署名し、代表者個人の実印を押印します。実印を押印するのは、公証人の外国文認証の際に必要となるからです。又、フィリピン人労働者の署名と証人2名の署名、認印を押印し、契印(外国人は署名)します。

(4)外国人の署名捺印及び無資力証明に関する法律
 労働契約法4条2項は、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする旨規定します。雇用契約書における労働者の署名捺印は、法律の規定はありませんが、一般的には、労働者が契約当事者として署名捺印をします。
 しかし、フィリピン共和国では印鑑制度がなく、フィリピン人労働者は捺印することができませんが、外国人の署名捺印及び無資力証明に関する法律1条は、法令の規定により署名、捺印すべき場合において外国人は署名することをもって足りる旨規定します。
 よって、英文雇用契約書への外国人の署名捺印は、署名することをもって足ります(同条)。

4.公証人の一括認証
 在日フィリピン大使館の領事認証には、前提として英文雇用契約書について公証人の外国文認証、法務局長の公証人署名の証明、外務省領事局担当官の公印確認が必要となります。当該手続は、原則として個別の手続が必要となりますが、東京都内、神奈川県内及び大阪府内の公証役場においては、例外的に一括認証(ワンストップサービス)を行うことが認められています。

5.レッドリボン認証(Authentication)の改正点
 従来、在日フィリピン大使館の領事認証には、①公証人の外国文認証、法務局長の公証人署名の証明、外務省領事局担当官の公印確認を受けた英文雇用契約書の原本及びその写し、②在留資格認定証明書の原本、③法人登記事項証明書及び英文の訳文、④レターパックが必要でした。
 しかし、在日フィリピン大使館の内規の改正によって、②③が不要となりましたが、フィリピン大使館に来庁した者の身分証明書写し(運転免許証写し等)の上部に氏名を手書きでローマ字表記したものが必要となりました。
 よって、在日フィリピン大使館の領事認証には、公証人の外国文認証、法務局長の公証人署名の証明、外務省領事局担当官の公印確認を受けた英文雇用契約書の原本及びその写し、身分証明書写し、レターパック510(受取人の住所氏名を記載)を提出し、手数料としてUS25ドルを支払います。約1週間後にレッドリボンで補箋された英文雇用契約書の原本が返送されてきます。

6.海外雇用証明書(OEC)の発行
 フィリピン共和国における出稼ぎ労働者の移動を管理する政府機関であるフィリピン海外雇用庁(POEA)の下部組織である雇用前サービス事務所(PSO)は、海外での就労を証明する海外雇用証明書(OEC)の発行を行っています。
 フィリピン人労働者が、就労ビザによって我が国に入国する場合、在留資格認定証明書の交付後(法7条の2)、当該証明書及びレッドリボン認証後の英文雇用契約書等を申請人に送付し、同人がフィリピン政府(POEA/ PSO)から海外雇用証明書(OEC)の発行を受けなければなりません。