母国に強制送還できないとき(法53条2項)大阪高裁判決

 日本に不法入国し、日本に住むイラン人を殺害したとして殺人罪などで服役したイラン人男性が、母国に強制送還されるとイラン・イスラム刑法に基づく報復刑を受ける恐れがあるとして、強制送還の取り消しを国に求めた訴訟の控訴審判決が11月27日、大阪高裁でありました。石井寛明裁判長は「公開処刑される可能性が相当程度ある」と主張を認め、送還先にイランを指定したのは「合理的な裁量権の範囲を逸脱」と認定して、イランへの強制送還を違法として取り消しました(行政事件訴訟法30条)。

1 国籍又は市民権の属する国に送還することができないとき(入管法53条2項)
 法は、退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする旨規定し(法53条1項)、前項の国に送還することができないときは、本人の希望により、左に掲げる国のいずれかに送還されるものとするとし(2項)、本邦に入国する直前に居住していた国(1号)、本邦に入国する前に居住していたことのある国 (2号)、本邦に向けて船舶等に乗つた港の属する国(3号)、出生地の属する国(4号)、出生時にその出生地の属していた国(5号)、その他の国(6号)を規定しています。
 裁判では、退去強制処分を受けたイラン人男性が、被害者遺族の強い処罰感情から遺族が賠償金の受け取りを拒否し、イランに帰国すれば起訴され報復刑により死刑判決が言い渡される蓋然性は極めて高く、このような「生命に差し迫った危険が発生することが予想される場合」には「その者の国籍又は市民権の属する国に送還することができないとき」(2項)に該当すると判断しました。
 以上の論理によって、国が強制送還先にイランを指定した処分は「合理的な裁量権の範囲を逸脱」とし、取り消されました(行政事件訴訟法30条)。以後、本人の希望により、法53条2項1号乃至6号に規定するいずれかの国に送還されることになります。